政令第252/2026/NĐ-CP号および通達第89/2026/TT-BTC号 – 新たな税務管理制度の法的枠組み
2026年6月30日、ベトナム政府は、税務管理法(法律第108/2025/QH15号) の一部条項の詳細規定および施行ガイドラインを定める政令第252/2026/NĐ-CP号(以下「政令252号」) を公布しました。また、同日、財務省は、税務管理法および政令252号の実施を案内する通達第89/2026/TT-BTC号(以下「通達89号」) を公布しました。
両法令は2026年7月1日より施行され、従来の関連規定を置き換えるとともに、税務行政の全面的なデジタル化、行政手続の標準化、およびデータに基づくリスク管理の強化を目的とした新たな税務管理制度の法的枠組みを整備しています。
企業が特に留意すべき主な改正点は以下のとおりです。
1.1 デジタル化への移行・税務管理の全面的な電子化
政令252号および通達89号では、デジタルプラットフォームを活用した税務管理への本格的な移行が図られ、主な内容は以下のとおりです。
- 税務登録、税務申告、納税および不服申立てに至るまで、すべての手続を電子環境で実施することとされました(通達89号 第II章)。
- 税務調査について、電子データを活用したオンライン・リモート方式が新たに導入され、調査記録および調査結果は電子署名により作成・発行されます(通達89号第87条~第89条)。
- 納税者識別番号(Tax ID)による納税管理が導入され、過納税額は未納税額へ自動的に充当される仕組みとなります(通達89号第36条、第42条)。
- 納税者を税務コンプライアンスの水準に応じて4段階に分類し、高いコンプライアンスを有する納税者には優遇措置が適用される一方、コンプライアンスが低い納税者については重点的な管理・監督の対象となります(通達89号第4条、政令252号第48条)。
1.2 税務登録および税務申告の期限
(政令第252/2026/NĐ-CP号の 第6条、第10条、第12条)

1.3 税務申告に適用される為替レート
(政令第252/2026/NĐ-CP号 の第14条)
- グローバル・ミニマム課税(GloBEルール)に基づく追加法人所得税
専門法令において適用為替レートが定められていない場合には、税務申告日前の直近時点にベトナム国家銀行が公表するクロス為替レートを適用します。
- 石油・ガス事業
外貨建取引については実際の決済時の為替レートを適用します。また、ベトナムドン(VND)で納税する場合には、商業銀行が公表する送金買値と送金売値の平均レートを適用します。
- 輸出入貨物
税関評価額の算定に用いられる税関為替レートを適用します。現在、このレートは、税関法令に基づき、Vietcombankが前週木曜日に公表する送金買相場により決定されています。
⚠️ 留意事項
- 修正申告を行う場合は、初回申告時に適用した為替レートを継続して使用する必要があります。 修正申告の都度、為替レートを変更することは認められません。
- 税務調査・税務査察後に税額を修正する場合は、原則として初回申告時の為替レートを適用します。なお、納税者がこれまで一度も申告を行っていない場合は、申告期限日に適用される為替レートを使用します。
1.4 電子商取引(EC)プラットフォームによる販売者に代わる納税
(政令第252/2026/NĐ-CP号 の第43条~第44条)
- 注文機能および決済機能を備えた電子商取引(EC)プラットフォーム(Shopee、Lazada、TikTok Shopなど)は、取引成立時に、販売者に代わって付加価値税および個人所得税を源泉徴収・納付することが義務付けられます。
- ECプラットフォームが付加価値税および個人所得税を適正に源泉徴収・納付した場合、販売者は当該売上について改めて税務申告を行う必要はありません。
- ECプラットフォームを通じて商品・サービスを提供する海外事業者については、ECプラットフォームが付加価値税および法人税の双方を代わって源泉徴収・納付します。
1.5 税金滞納者に対する出国一時停止措置
(政令第252/2026/NĐ-CP号 の第28条)
- 政令252号では、以下の者に対して出国の一時停止措置が適用されます。
+ 5,000万VND以上の税金を滞納している個人および個人事業主
+ 5億VND以上の税金を滞納している企業の法定代表者または実質的支配者(Beneficial Owner)であり、当該税金が納付期限から120日を超えて未納となっており、かつ税務執行措置の対象となっている者
- また、登録住所において事業活動を行っていない旨の通知を受けた後、納税者番号(TIN)の再有効化または登録抹消手続を行わない納税者についても、本措置の対象となります。
- そのため、企業は税金の滞納状況を定期的に確認・管理し、出国一時停止措置の対象となるリスクを未然に防止することが重要です。
1.6 給与・賃金所得に係る個人所得税(PIT)の四半期申告の統一適用
(通達第89/2026/TT-BTC号の 第22条)
- 通達第89号では、給与・賃金を支払う法人および個人は、個人所得税(PIT)の申告を四半期ごとに実施することとされました。これにより、従来の原則として月次申告(一部四半期申告が認められる場合を除く)から取扱いが変更されます。
- 本改正は、行政手続の簡素化を目的とした政府決議第16/NQ-CPの方針を踏まえたものであり、企業の税務申告業務の負担軽減および申告頻度の削減を目的としています。
⚠️ご参照ください
2026年4月分の月次個人所得税申告書の取扱いについては、本ニュースレター第6章に掲載している公式文書第4021/CT-NVT号をご参照ください。
1.7 還付申請の取下げに関する権利
(通達第89/2026/TT-BTC号 第の47条第2項)
- 通達第89号では、納税者に対し、以下の権利が認められています。
+ 税務当局が還付決定または税務調査決定を発行する前であれば、還付申請を自主的に取り下げることができます。
+ 還付申請を取り下げた後、所定の要件を満たす場合には、修正申告を行い、当該税額を翌課税期間へ繰り越して仕入税額控除等に充当することが可能です。
1.8 新たな税務申告書類・申告様式の導入
- 通達第89号では、通達第80/2021/TT-BTC号に基づく税務申告書類、申告書および各種様式を全面的に改正するとともに、個人事業者向けの新たな申告様式を制定しました。これに伴い、通達第50/2026/TT-BTC号および通達第18/2026/TT-BTC号に規定される様式は廃止されます。
- 2026年7月1日以前の課税期間については、引き続き従来の様式を使用します(例:2026年6月分VAT申告、2026年第2四半期VAT・PIT申告など)。一方、2026年7月1日以降の課税期間については、新たな申告様式の適用が義務付けられます(例:2026年7月分VAT申告、2026年第3四半期VAT・PIT申告など)。
1.9 税務管理に関するガイドラインの全面的な見直し・一本化
政令第252号および通達第89号は、新たな税務管理制度の法的枠組みを整備するとともに、現行の多数の関連法令を廃止・置換しています。主な内容は以下のとおりです。
- 政令第252号は、政令第126/2020/NĐ-CP号、政令第91/2022/NĐ-CP号、政令第49/2025/NĐ-CP号、政令第117/2025/NĐ-CP号および政令第373/2025/NĐ-CP号の計5件の政令に代わるものです。
- 通達第89号は、通達第80/2021/TT-BTC号をはじめ、外国契約者税(Foreign Contractor Tax:FCT)に関する通達第103/2014/TT-BTC号、個人事業者向けの規定および税務申告様式に関する通達など、計10件の通達を廃止しています。
従来のような個別改正ではなく、政令第252号および通達第89号は、税務手続の電子化、データに基づく税務管理および行政手続の標準化を柱とする新たな税務管理制度を構築しています。
企業においては、2026年7月1日からの新制度への対応に向け、税務手続の見直し、システムの更新および社内担当者への教育・研修を早期に実施し、新たな法令への適切な対応を図ることが推奨されます。


