政令第253/2026/NĐ-CP号および通達第87/2026/TT-BTC号 – 個人所得税制度の整備・見直し
2026年6月30日、ベトナム政府は、個人所得税法(法律第109/2025/QH15号) の施行細則を定める政令第253/2026/NĐ-CP号(以下「政令253号」) を公布しました。また、同日、財務省は、同政令の実施を案内する通達第87/2026/TT-BTC号(以下「通達87号」) を公布しました。
両法令は2026年7月1日より施行されます。ただし、事業所得ならびに居住者個人の給与・賃金所得に関する通達87号の一部規定については、2026年1月1日から適用されます。
今回の改正は、個人所得税法に関する包括的な施行ガイドラインが初めて整備されたものであり、13年以上にわたり適用されてきた通達第111/2013/TT-BTC号に代わるものです。そのため、給与・報酬を支払うすべての企業に幅広い影響を及ぼすことが見込まれます。
主な改正内容は以下のとおりです。
2.1 基礎控除および扶養控除の見直し

主な改正点は以下のとおりです。
- 扶養親族として認定されるための所得要件が、従来の月額100万VND以下から月額300万VND以下へ引き上げられました。
- 18歳以上で民事行為能力を喪失した子が、新たに扶養親族として認められます。
- その他の扶養親族については、納税者と同居していることに加え、婚姻・家族法に基づき納税者が扶養義務を負っていることが要件となります。
2.2 課税所得から控除可能となる新たな控除項目
- 医療費控除
国内の医療機関において、公的医療保険の給付対象となる診療・治療費については、年間2,300万VNDを上限として課税所得から控除することができます。
- 教育費控除
国内の教育機関における教育・学習費用については、年間2,400万VNDを上限として控除が認められます。
- 私的年金保険料控除
企業負担分および従業員本人負担分を含め、月額300万VNDを上限として控除することができます。
➞適用要件
控除を受けるためには、納税者本人または扶養親族名義のインボイス・証憑を備えていること、かつ他の助成金や保険等により補填されていない費用であることが必要です。
また、政令第253号では、これらの控除を適用する場合、納税者本人が税務当局に対して個人所得税の確定申告を行うことが義務付けられています。
➞企業への留意点
企業は、従業員に対し、必要書類の要件および対象費用が発生した場合の確定申告義務について、あらかじめ周知しておくことが望まれます。
2.3 株式譲渡および不動産関連取引に係る個人所得税の取扱いの明確化
- 政令第253号では、上場会社および非上場株式会社の株式譲渡に係る個人所得税の計算方法が維持されました。これにより、譲渡価額の1%を課税する現行制度が継続され、従前検討されていた課税所得の20%課税は採用されていません。
- また、有限責任会社(LLC)または私企業の持分を100%譲渡する取引であって、実質的に不動産の譲渡を伴う場合には、不動産譲渡として個人所得税を計算することが明確化されました。
➞企業・投資家への留意点
不動産を保有する企業の持分譲渡については、取引の法的形式だけでなく、その実質的な内容を十分に検討し、適切な個人所得税の取扱いを判断することが重要です。
2.4 個人所得税の非課税所得の範囲を大幅に拡充
政令第253号では、個人所得税の非課税所得の範囲が拡大され、特定の分野および活動に対する優遇措置が追加されました。
- 食事手当
現金で支給される食事手当については、1人当たり月額120万VNDまでが非課税となり、超過部分は課税所得に含まれます。
- 時間外勤務手当、深夜勤務手当および未消化有給休暇手当
労働法令に基づき適正に支給される場合には、個人所得税が免除されます。
- 退職手当・失業手当
法令で定める基準額を超えて支給される部分についても、企業の就業規則または社内規程に基づいて支給される場合には、非課税となります。
- 高度人材に対する優遇措置
デジタル技術およびハイテク分野で一定の要件を満たして勤務する個人については、給与・賃金所得に対する個人所得税が5年間免除されます。
- グリーンファイナンスおよびカーボン市場関連所得
以下の所得が新たに非課税所得として追加されました。
- 認証された温室効果ガス排出削減成果の初回譲渡による所得
- 個人に割り当てられたカーボンクレジットの譲渡所得
- グリーンボンドから生じる利息
- 発行後最初のグリーンボンド譲渡による所得
2.5 譲渡制限付株式・ストックオプション(ESOP)に係る個人所得税の取扱い
譲渡制限付株式および従業員向けストックオプション(ESOP)については、株式を譲渡した時点で個人所得税が発生します。課税対象には、給与・賃金所得および有価証券譲渡所得の双方が含まれます。
- 給与・賃金所得に係る課税
証券会社または株式保管銀行は、各個人が保有する譲渡制限付株式およびESOP株式を管理するとともに、個人所得税を10%源泉徴収する義務を負います。
納税者本人は、現行規定に従い、当該所得を個人所得税の年次確定申告において申告する必要があります。
- 有価証券譲渡所得に係る課税
上場株式およびデリバティブ取引を含む有価証券の譲渡所得については、
個人所得税 = 譲渡価額 × 0.1%
⚠️デリバティブ取引(通達第87号の 第5条)
先物取引については、決済価格、契約乗数、契約数量および当初証拠金率に基づいて譲渡価額を算定します。
課税所得の発生時期は、売買注文が約定した時点または契約満了日となります。
2.6 デジタル資産に係る所得 ― 新たに導入された課税対象
政令第253号では、デジタル資産に係る所得が初めて個人所得税の課税対象として明確化されました。
- 暗号資産(Crypto)、仮想資産および暗号化資産は、新たに「その他所得」として個人所得税の課税対象となります。
- 個人所得税は、
譲渡価額 × 0.1%
により計算されます。
- また、以下の所得についても新たに課税対象となります。
- 「.vn」ドメイン名の譲渡所得
- カーボンクレジットの譲渡所得
- オークションにより取得した自動車登録番号(ナンバープレート)の譲渡所得(税率5%)
2.7 給与・賃金所得に係る源泉徴収および確定申告に関する留意点
政令第253号では、個人所得税の源泉徴収および確定申告に関する基準が見直されるとともに、適用範囲が明確化されました。
- 10%源泉徴収の適用基準
労働契約を締結していない個人、または契約期間3か月未満の労働契約を締結している個人に対する支払について、10%源泉徴収の適用基準額が、1回当たり200万VNDから500万VNDへ引き上げられました。
なお、この基準額未満の支払については、本人からの申出がある場合に限り源泉徴収が行われます。
- 適用範囲の拡大
上記の源泉徴収義務は、雇用契約終了後に支払われる所得についても適用されます。
- 確定申告の基準
他の所得源からの所得が平均月額1,500万VND以下であり、かつ10%の源泉徴収が行われている場合には、所得支払者による年末調整(税務確定申告の代行)の対象から除外することができます。
個人が税務当局へ直接個人所得税の確定申告を行う場合には、その年に受領したすべての給与・賃金所得および源泉徴収済みの個人所得税額を合算して申告する必要があります。

